2010/08/29

ビジョナリー・カンパニー / ジェームズ・C・コリンズ ジェリー・I・ポラス 山岡洋一訳 2回目



ビジョナリー・カンパニー ― 時代を超える生存の原則」を読みました。数年前に読んだことがあるのですが、ざっと読んでそのままだったので再読しました。

本書は1994年に出版され(1995年には日本語版も出版)、10年以上にわたり読み続けられているビジネス書のベストセラーです。最近、続編の「ビジョナリーカンパニー3」が発売されましたね。

製品ライフサイクルや世代を越えて存続している一流企業を「ビジョナリーカンパニー」と定義し(本当はもっと細かく丁寧に定義しています)、収集した膨大な情報をもとにその特徴と具体的な方法論をまとめた一大研究の集大成、の一冊です。参考文献が約700、直接集めた一次情報も膨大な数に上り、私と同じ人間がやったとは思えない気の遠くなるような仕事です。。その成果がたった2,000円(!)で手に入るなんて。。内容に全く触れないとしても、これだけで、すごい。。。これぞまさにstanding on the shoulders of giants.

ちなみに原題は「BUILT TO LAST - Successful Habits of Visionary Companies」。そのまま訳すなら「存続するべく設立された会社たち。ビジョナリーカンパニーの成功習慣」でしょうか。日本語版のメインタイトルを「ビジョナリーカンパニー」としたのは、マーケティング的な意味ですばらしい判断だったと思います。ただ、このタイトルには弊害もあり、本書の本当のテーマは「長きにわたり一流であり続けている会社」であるのに対して、日本では「理念がある、先見的」といった意味を込めた「ビジョナリー」が前面に出過ぎてしまったかなという気はします。。

でもその部分を考慮に入れたとしても、この本の翻訳がすばらしいことに変わりはありません。




目的
「良い会社」の定義と、その作り方を学ぶ。
最近、「会社をより良くするにはどうすればよいか?」というのを考えています。そのときにまず決めるべきは「良りよくするとはどういうことか?」(ゴール)、次に「そのためにはどうすればいいか」(戦略)だと思います。その上で良書とされている本書を参考にしたいと思い、読みました。
(後の方でも述べますが、この本で定義されている「ビジョナリーカンパニー」は必ずしも「良い会社」ではないし、逆もまたしかりだと思います。「ビジョナリーカンパニー」と「良い会社」、ふたつの概念に共通部分はありますが、これらはもともとは別概念です。このあたりを混同して読むと、本書のメインメッセージを誤読してしまいます。)


目次
第1章  最高のなかの最高
第2章  時を告げるのではなく、時計をつくる
第3章  利益を超えて
第4章  基本理念を維持し、進歩を促す
第5章  社運を賭けた大胆な目標
第6章  カルトのような文化
第7章  大量のものを試して、うまくいったものを残す
第8章  生え抜きの経営陣
第9章  決して満足しない
第10章 はじまりの終わり
付録



内容
本書の内容をばっくりまとめました。



■ビジョナリーカンパニーの定義
以下の条件をすべて満たす企業
・業界で卓越した企業
・広く尊敬されている
・この世界に消えることのない足跡を残している
・50年を超える歴史がある
・CEOが世代交代している
・製品やサービスのライフ・サイクルをいくつか繰り返している

■ビジョナリーカンパニーの特徴
ビジョナリーカンパニーに共通する特徴は次のとおり。
・時を告げるのではなく、時計をつくるという考え方
(製品やサービスをつくるのではなく、会社をつくるという考え方)
・基本理念を維持し、進歩を促す具体的な仕組みを持っている
1.基本理念
2.進歩
3.具体的な仕組み

■ビジョナリーカンパニーをつくる具体的方法
本書では基本理念を維持し、進歩を促す具体的な方法(考え方と仕組み)を5つ挙げています。
基本理念:
・カルトのような文化
・生え抜きの経営陣
進歩:
・社運をかけた大胆な目標(BHAG:Big Hairy Audacious Goals)
・大量のものを試し、うまくいったものを残す(進化による進歩)
・決して満足しない(不安を持つ仕組みと長期を見据えた投資)

□誤読してしまいがちなポイント(僕自身がかつて誤読しました……)
本書は次のような主張はしていません。ここを読み違えると、違ったビジョナリーカンパニー観を持ってしまいます。

―「ビジョナリーカンパニーとは、基本理念を維持し進歩を促す仕組みを持った企業である」
これが一番誤読してしまいがちなポイントだと思います。
本書のビジョナリーカンパニーの定義は、あくまでも上記の「一流であり続けている企業」です。そう定義した企業群が(結果として)共通して備えていたのが「基本理念を維持し進歩を促す仕組みを持っている」という特徴です。こちらは定理です。この定義と定理を混同するとわけわからなくなります。

―「ビジョナリーカンパニーは良い会社である」
著者らがやったのは、あくまでも科学的なアプローチのもとに、「長きにわたって一流であり続けている会社」の特徴を調べた研究に過ぎません。そもそも、「良い会社」に客観的・普遍的な定義を与えること自体が難しい話だと思います。

―「すべての会社はビジョナリーカンパニーを目指すべきである」
この本に書かれている経営者や企業家へのメッセージは、「もし例に挙がっているような企業(本書が定義する「ビジョナリーカンパニー」)を作りたいのであれば、参考になる情報があります」程度のものです。

―「基本理念を維持し、進歩を促すようにしてさえいれば、必ず時代を越えて一流であり続けられる」
十分条件と必要条件を混同して、無理やり帰納的に結論を出せばこういう結論が出てきてしまいます。
しかし、「基本理念を維持し、進歩を促す」というのは、今回研究対象となった「ビジョナリーカンパニー」に偶然たまたま一致した特徴であって、「時代を越えて一流であり続ける」ための十分条件ではありません。……そう考えてみればこれは経営学全般に言えることかと思います。経営学では「Aさえやれば必ずBになる」のA(十分条件)を出すということがそもそも原理的にできません。このあたりも間違いがちです(僕自身が……)。

……1)あくまでも科学的アプローチに基づいているということ、2)(「すべての会社はビジョナリーカンパニーを目指すべきである」などの)倫理観に関わる部分に立ち入っていないこと――この2点が本書が使いやすく、信頼に足る理由だと僕は思います。


ピックアップ
以下、本書からいくつか重要なポイントだと思えた箇所をピックアップします。
ひとりの指導者の時代をはるかに超えて、いくつもの商品のライフサイクルを通じて繁栄し続ける会社を築くのは、「時計をつくること」である。
(中略)会社を築くこと、つまり、時を刻む時計を作ること
(中略)建築家のようなやり方で、ビジョナリー・カンパニーになる組織を築くことに力を注ぐ。こうした努力の最大の成果は、(中略)会社そのものであり、その性格である。
「会社こそが作品である」という考え方。

わたしたちの調査によれば、ビジョナリー・カンパニーの「時を刻む時計」の重要な要素は、基本理念、つまり、単なるカネ儲けを超えた基本的価値観と目的意識である。
基本理念を持つことから始まる、というお話。

基本理念 = 基本的価値観 + 目的
基本的価値観 = 組織にとって不可欠で不変の主義。(中略)
目的 = (中略)会社の根本的な存在理由。(中略)
基本理念のシンプルでわかりやすいブレークダウン。

基本理念を、文化、戦略、戦術、計画、方針などの基本理念ではない慣行と混同しないことが、何よりも重要である。(中略)少なくともビジョナリー・カンパニーになりたいのであれば、基本理念だけは変えてはならない
基本理念とは、「それだけは決して変えない」もの。基本理念以外はすべて環境に即して変えていいもの。

組織を築き、経営している読者に向けた本書の主張のなかで、何よりも重要な点をひとつあげるなら、それは、基本理念を維持し進歩を促す具体的な仕組みを整えることの大切さだ。これが時計をつくる考え方の真髄である。
ここに、1)基本理念、2)進歩、3)具体的な仕組み、という話が出て来ます。

社運をかけた大胆な目標――リスクが高い目標やプロジェクトに大胆に挑戦する。
カルトのような文化――すばらしい職場だと言えるのは、基本理念を信奉している者だけであり、基本理念に合わない者は病原菌か何かのように追い払われる。
大量のものを試して、うまくいったものを残す――多くの場合、計画も方向性もないままに、さまざまな行動を起こし、なんでも実験することによって、予想しない新しい進歩が生まれ、ビジョナリー・カンパニーに、種の進化に似た過程をたどる活力を与える。
生え抜きの経営陣――社内の人材を登用し、基本理念に忠実な者だけが経営幹部の座を手に入れる。
決して満足しない――徹底した改善に絶え間なく取り組み、未来に向かって、永遠に前進し続ける。
今回の対象企業の多くで見つかった具体的な仕組みの例。

ビジョナリー・カンパニーの真髄は、基本理念と進歩への意欲を、組織のすみずみにまで浸透させていることにある。
基本理念と進歩への意欲を言葉にしているだけ、トップが思っているだけでは十分でない、とのこと。

一貫性を達成するためには、働き続けるしかない。以下に、いくつかの指針をあげておこう。
1 全体像を描く
2 小さなことにこだわる
3 下手な鉄砲ではなく、集中砲火を浴びせる
4 流行に逆らっても、自分自身の流れに従う
5 矛盾をなくす
6 一般的な原則を維持しながら、新しい方法を編み出す
具体的な仕組み作りにおいて重要な「一貫性」を保つ上で参考にすべき指針。

本書を読んで、今後のビジネスに活かし、周囲の人たちに伝える教訓として、以下の4つの概念だけは覚えておいてほしいと願っている。
1 時を告げる予言者にはなるな。時計をつくる設計者になれ。
2 「ANDの才能」を重視しよう。
3 基本理念を維持し、進歩を促す。
4 一貫性を追求しよう。
本書のメインメッセージをまとめた部分。

(「ビジョナリー・カンパニーを築くには適していない人はいるのか」という問いかけに対する回答の一部として……)
ほとんどいない。適していないと言えるのは、長期にわたってねばり強く仕事を進めていくのを望まない人、成功すれば自己満足して努力しなくなる人、基本理念を持たない人、自分が去ったあとの会社の姿に関心を持たない人だけである。
進歩への意欲がないのであれば、(中略)ビジョナリー・カンパニーを築くには適していない。
目的を持った価値観を重視する会社にすることには興味はなく、カネさえ儲かりさえすればよいのであれば、ビジョナリー・カンパニーを築くには適していない。
ここで、誰もがビジョナリー・カンパニーを目指すべきである、とは言っていない。「~人だけである」と限定して言ってますが、逆に、これらのどれにもあてはまらない人、つまり「ねばり強く仕事を進めることを望んでいて、成功後も絶えず努力し続けて、基本理念を持ち、自分が去った後の会社にも強い関心を持っている人」がどれだけいるか、、、と考えるとむしろそちらが疑わしいような気もします。。

(「調査結果が21世紀になれば時代遅れになってしまうのではないか」という問いかけに対する回答の一部として……)
わたしたちの調査結果を企業に適用するにあたっては、創意工夫が必要となる。わたしたちはあえて、「ビジョナリー・カンパニーをつくる10の方法」といったノウハウ本のスタイルを避けてきた。(中略)手軽なノウハウ本に精巧に秘訣を求めるというのは、ビジョナリー・カンパニーがこれだけはやらないことである。あなたにも名画がかけますというキットを、ミケランジェロが買うようなものではないか。ビジョナリー・カンパニーを築くのは、設計の問題であり、偉大な設計者は一般的な原則を活かすのであって、決められた手順に機械的に従っていくわけではない。
ミケランジェロの例がわかりやすいです。そもそもビジョナリー・カンパニーはマニュアル志向で到達できるレベルではない、ということでしょうか。


感想
「製品やサービスではなく、会社自体を作品と考える」という発想がなかったので、そこでまず衝撃を受けました。

基本理念と進歩。それらの具体的な仕組み。。。自分のキャリア観、ビジネス観に大きな影響を与えてくれた一冊だと思います。

今後のITの進化によって、会社と外部の境目、会社の輪郭がますますあいまいになっていくかと思いますが、この研究成果はまだまだ使えるものだと思います。また、会社にかぎらずあらゆる組織、コミュニティに通用する考え方だと思うので、自分の人生で実際に活かしていきたいと思います。

これだけの内容が2,000円ほどで手に入るなんて、本当にすごい時代です。。

仕事を通じて、次の世代に残すものを作りたい、という方にぜひ読んでいただきたい一冊です。


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