2011/02/24

これからの「正義」の話をしよう / マイケル・サンデル 鬼澤忍


これからの「正義」の話をしよう」を読みました。

難しさのあまり途中で何度も挫折し、読み終えるまで半年以上もかかってしまいました。。。

展開を丹念に追いつつ読もうと思ったらかなりの時間がかかってしまいましたので、「速く読むのが得意」「時間をかけてもいいからじっくり読みたい」という人以外にはあまりおすすめではありません。

「なぜここに書くのか」というと、今回は「せっかく苦労して読んだんだから書いておきたい・・・」という、ただそれだけでして。。。

目的
・迷ったときにより良い道を選べるようによりよい意思決定の方法を学ぶ

目次
政治哲学でよく議論されるテーマが1章1テーマで紹介されています。
第1章 正しいことをする
第2章 最大幸福原理──功利主義
第3章 私は私のものか?──リバタリアニズム(自由至上主義)
第4章 雇われ助っ人──市場と倫理
第5章 重要なのは動機──イマヌエル・カント
第6章 平等をめぐる議論――ジョン・ロールズ
第7章 アファーマティブ・アクションをめぐる論争
第8章 誰が何に値するか?──アリストテレス
第9章 たがいに負うものは何か?――忠誠のジレンマ
第10章 正義と共通善


まとめ

得た学びを5つの視点でまとめました。
1. テーマ
2. 要素
3. 代表的な考え方
4. 軸
5. マイケル・サンデルの主張

この本というよりは、この本をきっかけに学んだ「政治哲学」全体についての学びをまとめています。

1 テーマ
この本のテーマは「正義」です。つまり、「正しい行いとはどういうものなのか?」「ある行いが正しいとすればなぜそう言えるのか?」という疑問を軸に話が展開されています。

この本を読むまで知らなかったのですが、こういった学問分野のことを「政治哲学(political philosophy)」と呼ぶそうです。Wikipediaのpolitical philosophyのページにはこうあります。
Political philosophy is the study of such topics as liberty, justice, property, rights, law, and the enforcement of a legal code by authority: what they are, why (or even if) they are needed, what makes a government legitimate, what rights and freedoms it should protect and why, what form it should take and why, what the law is, and what duties citizens owe to a legitimate government, if any, and when it may be legitimately overthrown—if ever.
(意訳)
「政治哲学」とは、自由、正義、所有権、権利、法律、権力者によるルールの強制などといったトピックを扱う学問です。それらがどんなものなのか、なぜ必要なのか。政府はどういう要素によって適切なものとなるのか。政府が保証すべき権利と自由とはどのようなものか、そしてそれはなぜか。政府が取るべき形はどのようなものか、そしてそれはなぜなのか。適切な政府にはどのような法律があるべきで、国民はどのような義務を負うべきなのか。そして仮に、もしそれらが覆されるべきときがあるとすれば、そんなどんなときなのか。

「哲学」という全体の中での位置づけで言うと、哲学を「個人の哲学」と「社会の哲学」の2つに分けた場合における後者が政治哲学だと考えると良いみたいです。よく似た言葉に「社会哲学」という言葉もあるようですが、それらの位置関係は私にはわかりませんでした。。。

2 要素
正義をめぐる議論に登場する概念には次のようなものがあります。
・幸福
・自由
・美徳
・公共
・平等
・義務・責任
・差別・逆差別
これらの要素を視野に入れながら、具体的事例を用いて「どうあるべきか」「なぜそうあるべきなのか」という考察を進めていくのが政治哲学の人たちがやっていることのようです。

3 代表的な考え方
人類の思想の歴史を政治哲学の視点から見た場合に、価値や影響力の大きい主張として次のようなものがあります。
功利主義(utilitarianism)
リバタリアニズム・自由至上主義(libertarianism)
見えざる手(invisible hand)

功利主義(utilitarianism) 最大多数の最大幸福――「人々の幸せの総量を最大化すること」こそ正しいとする考え方。そこでは、一人ひとり価値観も背景も異なる人々の幸せを定量化できる、という前提がおかれる。本書で取り上げられている思想家…ベンサム・ミル。

リバタリアニズム・自由至上主義(libertarianism) 個人が可能な限りの自由を得ることこそが正しいとする考え方。「自由とはどういう状態なのか」という「自由の定義」をめぐってさらに意見が分かれていきます。本書で取り上げられている思想家…カント・アリストテレス。

見えざる手(invisible hand) アダム・スミスが「国富論」の中で提唱した考え方。厳密な意味合いはわかりませんが、おそらく「個人が自分の利益を追求するだけで、自然と社会全体に利益がもたらされる」とする考え方。良くも悪くも、個人主義、自由市場主義を助長する。

4 軸
政治哲学の議論においては、対立する2つの価値を対比する軸がよく登場します。
・個人 対 社会   (家族・地域・集団・国家など)
・意思 対 行為の結果(責任の所在をめぐった議論のときに)

5 マイケル・サンデルの主張
本書の着地点として著者が持ってきた主張は、次の3つに集約することができます。

  1. 行いが正しいかどうかを普遍的に決める、ただひとつの原則を導き出すことはできない
  2. その中でなるべくbetterな行いをするためには、一人ひとりが「公共の善」というものを意識して都度議論していくほかない
  3. この複雑な多元的社会において、政治は道徳的な問題にも介入していくべきだ

3つ目の主張はマイケル・サンデルのごく個人的な意見な印象があるので置いておくとして、前者2つは中立的な立場から見ても納得がいくものです。

人類がこれまで蓄積した知見を総動員しても、普遍的な正しさを決められる判断軸は存在しない。正しさというのは、都度目の前に現れる判断の機会において、持つべき視点を洗い出し、判断基準を選定する。そして、微妙なバランスの中でより良いものを信じて決断する、その中にしか現れないもののようです。

また、なるべく正しい道を選ぶには、これまでの人類史の中で展開されてきたさまざまな考え方――「功利主義」「リバタリアニズム」などを参考にするのが良い、stand the shoulder of giantsというのもこの本で言われていることのひとつです。


一言感想

難しかったです。。。

最終的な結論には励まされました。複雑な問題は「持つべき視点を洗い出して当事者たちが議論して決めるほかない」という認識を持てていると、複雑な問題に出会ったときにさじを投げずにじっくり向き合って考えることができそうです。


こんな方におすすめ
・政治哲学のややこしい議論でも論じられる力を磨きたい


ちなみに
私は、ジョン・ロールズ、アファーマティブ・アクションのくだりは読み飛ばしました。ロールズはあまりに難しかったので。そして、アファーマティブ・アクション(とそれによって起こる逆差別の問題)は今のところ身近に感じられなかったので。


おまけ
マイケル・サンデルの講義をさらに楽しみたい場合はこちらのページがおすすめです。
Justice with Michael Sandel
ハーバード白熱教室 - NHK

本書に興味があってまだ読んでいない場合は、公式ページから第1章をPDFでダウンロードして試し読みすることができます。
これからの「正義」の話をしよう - 早川書房

政治哲学について掘り下げたい場合はこちらがおすすめ。
Political Philosophy - internet Encyclopedia of Philosophy
Political philosophy - Wikipedia


余談
政治哲学という日本語
個人的には、「政治哲学」という名前がしっくり来ません。
「政治」と聞くと私はどうしても、立法や行政といった狭義の「政治」を思い浮かべてしまうのですが、英語のpoliticalには「政治の」のほかに「賢明な」「分別のある」といったニュアンスがあり、また、「方針」という意味のpolicy、「行儀の良い」という意味のpoliteとも語源が近い言葉なことを思うと、politicalの部分をもっとうまく訳す方法はないのかなと思います。

哲学とは
Wikipediaによると、哲学とはこのようなものだと説明されています。
Philosophy is the study of general and fundamental problems, such as those connected with existence, knowledge, values, reason, mind, and language.
(意訳)
哲学とは、普遍的で基本的な問題を扱う学問である。そのテーマは存在や知、価値、理由、心、言語などに関するものである。

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