2012/12/13

フロー体験入門 / ミハイ・チクセントミハイ


フロー体験入門」を読みました。

副題は「楽しみと創造の心理学」。原題は「FINDING FLOW」。

名前が呪文っぽい心理学者 ミハイ・チクセントミハイ が1997年に書いた本で、日本語訳は2010年初版。とかなり最近ですが、著者の著作の中での位置づけとしては「フロー体験とグッドビジネス」「スポーツを楽しむ」よりも前の本になります。

まさにタイトルのとおり「フロー入門」な一冊。フローに興味をもった人が最初に取りかかる一冊としては、この本、あるいは「フロー体験 喜びの現象学」がよいかと思います。

ちなみに、著者のフロー関連本を出版された順にまとめてみるとこんな感じです。
  • Beyond Boredom and Anxiety: Experiencing Flow in Work and Play 1975
  • The Meaning of Things: Domestic Symbols and the Self 1981
  • Optimal Experience: Psychological studies of flow in consciousness 1988
  • Flow: The Psychology of Optimal Experience 1990
  • The Evolving Self 1994
  • Creativity: Flow and the Psychology of Discovery and Invention 1996
  • Finding Flow: The Psychology of Engagement with Everyday Life 1997
  • Flow in Sports: The keys of optimal experiences and performances 1999
  • Good Work: When Excellence and Ethics Meet 2002
  • Good Business: Leadership, Flow, and the Making of Meaning 2002

このうち、邦訳されていて現在手に入るものとしてはこのあたりです。
  • Beyond Boredom and Anxiety: Experiencing Flow in Work and Play
    楽しみの社会学
  • The Meaning of Things: Domestic Symbols and the Self
    モノの意味
  • Flow: The Psychology of Optimal Experience
    フロー体験 喜びの現象学
  • Finding Flow: The Psychology of Engagement with Everyday Life
    フロー体験入門
  • Flow in Sports: The keys of optimal experiences and performances
    スポーツを楽しむ フロー理論からのアプローチ
  • Good Business: Leadership, Flow, and the Making of Meaning
    フロー体験とグッドビジネス

ちなみに、「フロー体験入門」と「フロー体験 喜びの現象学」の2冊を「基本編」とするなら、「フロー体験とグッドビジネス」や「スポーツを楽しむ」なんかは「応用編」といった位置づけです。もしこのあたりを読むなら、基本編を読んだあとがよいかなと。

ただ、本書も日本語タイトルで「入門」とはいっても、著者のいつものパターンに違わず、ボリューム満載です笑。。。「上澄みだけちょっと勉強しようかな」なんて軽い気持ちで読み始めると、内容が濃密で、でもおもしろいので、斜め読みできなくて後悔します笑

「フローについてサクッと知りたい」という場合は、間違いなく、ミハイ・チクセントミハイの本よりはWikipediaのページを見るのがよいかと思います。日本語と英語とで充実度が結構ちがうので、できれば、英語OKの方は英語の方を・・・
フロー - Wikipedia (日本語)
Flow(psychology) - Wikipedia (英語)


タイトルの「フロー」(flow)というのは、ひとことでいえば

目の前のタスクに極度に集中し、没頭した状態

のこと。

スポーツや何か単純な作業に打ち込んでいるとき、ふと気づけば、感覚が普段と変わり時間の感じ方が極度に遅くなったり速くなったりしていた――そんな経験が誰しもあるかと思います。

私も、子どもの頃は、遊びやテレビゲーム、パズル、漢字や計算のドリル、書道、部活などなど。大人になってからは、デスクワーク、ジョギング、ボルダリングなどなど、そういった経験の「素」ともいえるようなものがいくつかあります。

そんな「夢中になった」心の状態を「フロー」という名前で概念化し、心理学として最初に研究し始めたのがこのミハイ・チクセントミハイです。

ミハイ・チクセントミハイが言うところでは、「明確な目標」「すばやいフィードバック」などフローの特徴として7~8つのポイントが挙げられていますが、その中でも特に有名なのは「スキル」レベルと「挑戦」レベル、心理的状態との関係を表す次のフレームワークでしょう(フロー理論の中でここだけが切り取られて部分的に有名になりすぎているきらいはあります・・・ このあたり、「背景情報なしで一部だけ切り取られて濫用されている」という意味ではマズローの「欲求階層説」なんかと似ていますね。)。


この図は本書にも載っていますが、各ポイントの日本語は私訳です。オリジナルの図は英語のWikipediaに載っていますのでよろしければそちらを。

いわく、フローというのは「スキルと挑戦のレベルのバランスがよくともに高い状態」で起こりやすい、とのこと。スキルは高いけど挑戦のレベルが低い領域ではフローというよりは「リラックス」しやすいし、逆に、スキルが低くて挑戦のレベルが高い領域では「強い不安」だけがあってフローを感じることはなかなかできません。

日本語に「やりがい」という言葉がありますが、これはちょうど、自分の能力が活かせて、かつ、ほどよい難易度のタスクに取り組んでいるときに生まれやすいかと思うので、ちょうどこの「フロー」の領域と一致しているかと思います。

もちろん、ときにこういう心的状態に人が「入る」ということは、遠く昔から認識されてきました。また、心理学の領域でも「人はどんなときに最も幸せを感じるのか」という問いへの答えを巡ってこういう状態への言及は彼以前にも多くなされてきたようです。

その意味で、ミハイ・チクセントミハイはフローの「発見者」ではありません。そのことは彼自身明確に認めています。

それでも彼がすごいのは、この一見つかみどころがなく研究の対象にしえない「フロー」という心的状態の研究を、調査や思索などあらゆる方法を駆使してそのキャリア全体にわたり取り組み続けてきたことです。これはまさにコロンブスの卵的取り組みだったと思います。

現代の日本で生きているかぎり、もはや、経済面や健康面で得られる豊かさには伸びしろの限界が見えてきています。だけど、フローがもたらすやりがい、さらには、フローが生活の中に組み込まれていることによる喜びという意味での伸びしろは、私たちの生活には大きく残されているように思います。

調査結果ありーの、ひたすら考えた思考の痕跡ありーので、頭が活性化されるおもしろい本でした。

目次
目次はこのようになっています。
第1章 日々の生活を構成しているもの
第2章 体験の内容
第3章 さまざまな体験をどう感じているか
第4章 仕事についての矛盾
第5章 レジャーの危機と機会
第6章 人間関係と生活の質
第7章 生活のパターンを変えよう
第8章 自己目的的パーソナリティー
第9章 運命愛


今回は、全体的にピックアップしたいところばかりなのでピックアップはなしで。


・・・去年ポジティブ心理学に出会って、その次の展開として2012年はミハイ・チクセントミハイの本をいくつか読んできました(ポジティブ心理学を提唱者のひとりなのでそのつながりで・・・)。彼の本はいずれも、読んでいて楽しく、読み応えもあり、また、活かす気さえあれば読後も仕事・プライベート問わず大きな影響を与えてくれる(たとえばラクをしながら成長することができるようになる)よい本かと思います(あくまでも、自分で実践する必要がありますが)。

私が年を取ったときには「若い頃生き方に影響を受けた本」としてこのミハイ・チクセントミハイの本を必ず挙げるだろうと思います。それぐらい、いま、影響を受けています。実践という意味ではまだまだですが、これからも続けていきたいと思います。

最近よく考えることですが、この大量消費・情報過多の社会において、外界から煽られて「刷り込まれた欲求」に支配されるのではなく、また逆に、時代の濁流から距離を置いた前近代的な生活の中に閉じこもってしまうのでもなく、自分を確立しながら自分なりのほどよいバランスを見つけて生きていく。そういうのは、口ではカンタンでも、実践するのはなかなかカンタンではありません。

ただ、それが比較的やりやすい、可能性が高いという意味で、実は、日本というのは世界でも特に恵まれた土地だと思います。ほかのどの国がどうというのはありませんが、ここ日本では、自分で目を開きさえすれば選択肢は多く、人や文化の多様性にも実は寛容かなと思います

ただ、可能性としては大きくても、実際に多くの人がその可能性を活かせているかというとあまりそうでもない気がします。

そのあたりの可能性に目を開き、一回きりの自分の人生をよりよくする。それは一人ひとりの人間が自分でやるしか、他の人にかわりにやってもらうことはできないかと思います。この面で、この本は多くの人に刺激と手がかりを与えてくれる良書かと思います。


おまけ
著者のスピーチもTEDにあるので、よろしければ。



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