2013/01/25

マネー・ボール 奇跡のチームをつくった男 / マイケル・ルイス


マネー・ボール」を読みました。

原題も日本語版と同じ「MONEYBALL」。副題は「The Art of Winning An Unfair Game」です。日本語でいうと、「不公平なゲームで勝つ技術」といったところでしょうか。

内容は、「野球」と「数値分析」をテーマとしたノンフィクション小説です。

舞台は2000年過ぎのアメリカ・メジャーリーグ。資金力に欠ける貧乏球団オークランド・アスレチックス。そのアスレチックスを数値分析の力を使って弱小球団から一流球団へと変貌させた実在の人物、ビリー・ビーンの物語です。

この本を一本の数式で表す(笑)としたら

マネーボール = 野球 × 数値分析 + 選手たちの悲喜こもごも

私は「数値分析」の側面に惹かれてこの本を手に取りましたが、登場人物たちの人生の物語などもおもしろく、読んでいて何度も鳥肌が立ち、目頭が熱くなりました。熱いです。

位置づけとしては、「その数学が戦略を決める」(Super Crunchers)で話題となった数値分析の適用範囲の広さと絶大な威力を、2000年代初頭という早い時期に紹介していた一冊。ワクワク&感動しながら、同時に(分析好きな人なら)知的刺激も味わえるという、とてもおいしい一冊です。OR(オペレーションズリサーチ)好きな方におすすめしたい一冊です。

2011年にはブラッド・ピット主演で映画化もされました。映画版予告編はコチラ。


余談ですが、、、私は、「マネーボール」というタイトルから勝手に、この作品を「お金を唯一の行動原理として、カネの力で野球の世界をグチャグチャにかき回したカネの亡者たちのお話」(笑)だとばかり思っていました。「ブラッド・ピットもそんな役よくやるなぁ」と思ってましたが、全然ちがいます。

感想

アスレチックスのGMビリー・ビーンは、データ分析から導かれた統計的事実をもとに、それまで支配的だった「打率重視」「防御率重視」な野球の考え方を捨て、チームの勝利にとってより重要な「出塁率」や「奪三振数」を重視するようなチーム文化を作り上げます。

詳細は割愛しますが彼らの理屈によると、メジャーリーグの野球では
・打率や打点 よりも 出塁率重視
・盗塁・バントによる進塁 よりも アウトカウント重視
・投手の防御率 よりも 奪三振数・フォアボール数重視
にした方がゲームに勝つ確率が高まり、勝利数が増えるとのこと(もちろん、対象はかぎられているので、これが野球全般にあてはまるというわけではありません)。

本書では、これらの最終的な結論だけでなく
なぜそんな結論が導き出せるのか
・その事実を認めた上で、では、「野球というゲーム」をどう再定義すればいいのか
といった部分にまで丁寧な説明がなされています。特に「野球を再定義する」なんていうのは、ものすごく野心的でおもしろいところです。

本書の中で最も印象的だったのは、莫大なお金が動くアメリカプロ野球界の中であっても、この程度(単純な相関分析・回帰分析程度)の数値分析さえされていなかったあるいは、ずっと黙殺され続けていた)、という事実です。これが50年、100年前の話というのならまだしも、今からたった10年前のお話だというからなお驚きです。

データ重視のスタイルとして野村監督の「ID野球」ということばなんかもありますが(IDとはImportant Dataの略だそうです)、それがわざわざ「ID野球」と名づけられるということは、そうでない野球(スタイル)はどんな野球なんだろう、と不思議に思ってしまいます。

この歴史的な結果だけを見ると、私はついつい「こんなんエクセルあったらすぐにできたやろー!!」笑だなんて思ってしまいますが、、これはただデータを分析すればよかったということではなく、旧体質の体育会系の組織(?)の中で長年根付いてきた文化や常識に異を唱え、バカにされ嘲笑されながらも関係者たちを一人ひとり説得していく、という気の長いプロセスがその裏にはあったのでしょう。それを想像すると、ものすごく骨が折れる大変な仕事だったんだろうなぁと思います。まさにコロンブスの卵。


このようなデータ分析の技術は少しずつ身近なものになってきて、いまは主に大企業のビジネスだけで使われますが、中小企業やふつうの人々の生活の中にも徐々に取り入れられていくのでしょう。たとえば、正確過ぎて子どもとその家族の夢を殺ぐような子どもの適性診断やマイノリティリポート(犯罪者の事前予測)の世界が実現するのも、もはや時間の問題、なのかもしれません。

私たちはいままさに、「その数学が戦略を決める」のイアン・ダンバーが言ったような歴史の転換点――
馬と蒸気機関の競争のような歴史的瞬間にいる
のでしょう。そのことを正しく認識し、次の時代へと備えられたら、多くの人にとって人生はより楽しくなる、のかも、しれません。

ピックアップ

オークランド・アスレチックスの戦略の要となる選手トレードの心得を最後にピックアップしておきます。「選手」を会社や自分の持ち物(資産)と置き換え、「メディア」を世間と置き換えると、日々の仕事や暮らしにそのまま応用できる普遍的な教えになっています。

  1. たとえ現状でうまくいっていても、改善はつねにプラスになる現状維持などしょせん不可能。(略)
  2. はっきりと必要に迫られてしまったら、すでに手遅れ。条件が悪くても、のまざるをえなくなる。
  3. うちにとって各選手がどれぐらい価値があるのか、正確に把握せよ。正確にわかっていれば、きめ細かく値段をつけられる。
  4. 自分たちが本当に必要とするものを探せ(相手が売りたがっているものに釣られるな)。
  5. どんな取引をしても、メディアはどうせ好き勝手に騒ぎたてる。

おまけ
Wikipediaのマネー・ボールのページには豊富な解説が載っています。よろしければ!
マネー・ボール - Wikipedia

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